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横断歩道の戦い

戦いが起こります。
避けようのない戦いです。

車が往来する道路があり、そこを真っ二つに貫く横断歩道があります。
そこの信号は押しボタン式で、ボタンを押さなければいつまで経っても横断歩道を渡れません。

戦いの原因はここにあります。
まずもって、どういうわけかこのボタンを押さずに信号が変わるのを待っている人がしばしばいます。
理由は分かりません。
ボタンを押さないといけないことを知らないのか、はたまた自ら戦いを望んでいるのか、察することはできても本当のところを正確に把握することはできません。
真相は藪の中です。

とまれ、そういう人がいるがために、戦いが勃発するのです。
まず、ボタンを押さずに信号が変わるのを待っている人を、仮に「ガイル」と呼ぶことにします。
そうしてガイルが信号が変わるのを待っていると、向かいに新たな人物が現れます。
別に向かいじゃなくてもいいんですが、対峙という観点から見て向かいの方が構図的に分かりやすいので向かいということにします。
この新たな人物を、便宜上「木之本さくら」と呼ぶこととします。

木之本さくらはよもや相手がボタンを押していないなどとは思わず、ガイルと向き合って信号が変わるのを待ちます。
それから一分が経過し、二分が経過します。
ここまでくるとさすがに木之本さくらも感付きます。
もしかしなくても、ガイルはボタンを押していないのではないか、と。

木之本さくらがこの事実に気付いた瞬間、戦いの火蓋が切って落とされます。
なぜか。
理由は簡単。

この状況下で先にボタンを押すということは、すなわち「負け」を意味しているからです。
最初から何食わぬ顔をして木之本さくらがボタンを押していれば、そこには勝敗の概念は(少なくとも木之本さくらには)生じませんが、漫然と信号が変わるのを待った上でその事実に気付いてしまうと、もう逃れられません。
戦いの始まりです。
サウナから先に出た方が負けなのと同じことです。
先にボタンを押した方が負け。

この勝負、先に動いた方が負ける。

つまりはそういうことです。
これは、高貴なる精神の戦い。
互いの精神が耐えうる限り、いつまでも戦いは続きます。
戦いは時に、五分を超える長丁場に至ることさえあります。ありました。
もはや決着はつかないかと思われる。

しかし、それでもいずれ決着はつくのです。
それは大概、第三者の介入によって。
第三者、ここでは「枢木スザク」と呼ぶことにします。
どこからともなく現れた枢木スザク、この人も最初は木之本さくらと同じく信号待ちをします。
しかし早晩、どうやらボタンを押していないようだということに気付きます。
そうすると、枢木スザクは1も2もなくごく自然にボタンを押すわけです。
これにより、ガイルと木之本さくらの戦いは終結を見るのです。

この時一体誰が勝者で誰が敗者なのか、それを語るのは非常に難しいことです。
ごく平然と枢木スザクがボタンを押す時、木之本さくらは凄まじい敗北感を覚えます。
「戦うことを放棄するなんて」と心の内に罵りながら、それでいてどこか別のところでは自虐の念にかられてしまうのです。
「私は一体何をしていたのか。クロウカード」と。
仮にガイルが根負けしてボタンを押したとしても、木之本さくらは恐らく似たような精神状態になるでしょう。

そうと分かっていながらも、木之本さくらはガイルに出会う度、同じことを繰り返さざるを得ないのである。

横断歩道の戦いは、日常的にかくも複雑な、それこそ近代的自我の問題を顕在化させる精神的葛藤を生み出すものである。

しかし、なぜこの辺りには、やたらにガイルが多いのでしょうか。
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